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好きです。そう告げる前から、諦め半分だった。告白を決意したのも、『付き合いたい』だなんて、そんな大それた思いからなんかじゃなくて。
募りに募って、もう自分でもどうコントロールしていいのかわからないこの恋心の、終着点のつもりだった。
「……わたし、沖田くんが好きです」
ふたりきりになった教室でそう告げれば、否応なく襲ってくる沈黙が、胸に痛い。
クラスメイトである沖田総司くんは、この学校でも女の子に人気があって、彼を好きだという子は学年をも問わずに大勢いる。
沖田くんと仲の良い女の子は皆わたしより明るくて、可愛くて。
そんな彼が、目立たなくて地味なわたしなんかと付き合いたいと思う筈がないと、抱いた気持ちが恋心だと気付いた時にはもうすでに諦めていた。
初めから無理だとわかっていたのに、それでも膨らんでいく気持ちに心が押し潰されてしまいそうだった。
どこまでも終わりの見えない恋は苦しいだけだと、悟ったのはつい最近で。
だから今日、自分の思いをぶつけ見事に振られて、この片思いを終わりにしようと、そう思った。
玉砕覚悟のわたしの恋の結末は、沖田くんからの「ごめんね」という返事で結末を迎える筈だった。
それなのに……。
目の前にいる沖田くんは、わたしの顔を、にこにこしながら見詰めている。
予想外の反応にどうしていいのかわからず、わたしには彼の言葉を待つしかできない。
「ありがとう」
「え?……あの……ありがとうって……?」
「僕のこと好きなんだよね?だから、お礼」
「……はぁ」
「それじゃあ、今日は一緒に帰ろうか」
「……ど……どうして?」
「どうしてって……君、僕のこと好きなんだって、そう言ったよね?」
「……うん……」
「なら、今から僕たち付き合うってことでしょ?」
「……ええ!?」
受け止める予定だったものとは違う沖田くんの言葉に、驚きのあまりつい声が大きくなってしまった。
現在の状況をうまく飲み込めずに混乱するわたしと、落ち着き払って余裕の笑みを浮かべる沖田くん。
一体何がどうして、こんな状況になったのだろう。
「あの!付き合うって、わたしと!?」
「そうだよ。君以外に誰がいるの?」
「……!……告白のお礼に、ただ今日限定で一緒に帰る、とかじゃなく……?」
「僕が言ってる付き合いは、これからは毎日一緒に帰って、休みの日はふたりでどこかに遊びに行ったりするような付き合いだよ」
「それを、わたしと……?」
「うん」
「そんなの、沖田くんならわたしなんかよりも、もっと可愛い子が……」
段々と小さくなっていく声を聞いていた沖田くんの顔から笑みが消え、いつの間にか真剣な表情でわたしを見ていた。
「それ、本気で言ってる?もしかして、僕のことが好きっていうのは嘘だったとか?」
「違うよ!わたしはただ、ホントにわたしで良いのかなって、そう思って……」
あぁ、なんて情けないんだろう。
玉砕覚悟の告白だなんて、結局みじめな自分の逃げ道で、本当は自分自身と向き合うのが怖かっただけだ。
だから、こうして沖田くんが「付き合おう」と言ってくれても、‘わたしみたいな子じゃ駄目’と、臆病風を吹かせてる。
向き合おうとしてくれてる沖田くんを目の前にして、逃げ出したい衝動に駆られるのは、自分に自信のない、情けないわたしを彼に見られたくないからだ。
こんなわたしなんて、沖田くんに嫌われてもしょうがないんだろうなぁ。
今度こそ、「ごめんね」という終止符が打たれるかと思ったその時、沖田くんは唇を持ち上げて、わたしに囁く。
へえ、怖気付いたんだ。でもそんなこと僕には関係ない。
「簡単には逃がしてあげないからね」
そう言ってほほ笑む沖田くんの顔がひどく優しく見えたのは、見間違いなんかじゃない。
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