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忍として忙しなくしているせいか、それとも元からの性格なのか、わたしは季節の流れに疎いのかもしれないと、最近よくそう思う。
優しい風の吹く春も、陽射しの強い夏も、木々が紅く染まる秋も、いつのまにやらとうに過ぎていた。
ふと気が付けば、吹きすさぶ風は肌を刺す様に冷たくて、丸裸になった木々が増えていた。
目まぐるしい日々を過ごすうちに季節は過ぎ去っていき、いつの間にか冬がやってきていたらしい。
「いや、冬っていうかさ、もう年末でしょ」
そう言いながらため息を吐き出したのはカカシだ。
「ま、年末って言っても後数分で年も変わるんだけどね」
任務が終わったからとわたしの部屋を訪れたカカシに、「せっかくだから外に出よう」と連れ出された寒空の下。
「どこに行くの」と、隣を歩くカカシに問えば「どこって、初詣でしょ」と返されて、今夜が大晦日であることに初めて気付いたのだ。
「しかし大晦日だって気付かないなんてね……。なまえ……お前大丈夫?」
「しょうがないじゃない。ここのところ任務続きで忙しかったし……」
「そうかもしれないけどさ。それにしても気付くでしょ、普通」
「悪かったわね、普通じゃなくて。でもカカシには言われたくないわ」
「何で?」
「だって、カカシだって誕生日もクリスマスも忘れてたじゃない」
「……もしかして根に持ってるの?」
「別に根に持ってるわけじゃないわよ。ただ、カカシだって気付いてないじゃないって言いたいだけ」
わたしの家から徒歩数分の神社への道すがら、久しぶりに二人並んで歩いてみれば、些細な会話からその場の空気が怪しくなる。
誕生日やクリスマスだなんて、普通恋人同士が大事にしているものをカカシが忘れていた事を恨んでいるわけではない。(わたしだってカカシ同様に忘れていたのだし)
ただ、久しぶりに会ったというのに自分のことを棚にあげて、わたしに対して呆れた様な、馬鹿にした様なカカシの態度に少し苛立っただけなのだ。
「……」
「……」
重苦しくなってしまった空気を纏い、わたしたちは無言で歩き続けた。
家から数分でたどり着ける神社への道程がやたらと長く感じてしまう。
わたしは何もカカシとこんな風になりたい訳じゃないのな。
いつからこんな風に可愛げのない女になってしまったんだろう。そう思いながらもこの空気を打破するキッカケが見つけられなくて、手持ち無沙汰なわたしは、誤魔化す様にすっかり冷えた手を口元に持っていき、自分の吐息で暖めた。
事実この時期の夜の空気は本当に凍てつく様で、冷たくなった手は上手く感覚が掴めない。
もし今敵襲を受けたとしたら、『こんな手ではきっとクナイをうまく放つことも出来ない』なんて、色気もへったくれもない事を考えるのは所謂職業病ってヤツなのだろうか。
「……寒いの?」
冷たくなった手を擦り合わせるわたしを横目で見ていたカカシがそう声を掛ける。
気まずくなった空気を払うキッカケをカカシから投げ掛けてくれたのに、それでも「別に」なんて素っ気なく答える自分に、さすがのわたしも嫌気がさして。カカシも呆れたのか、ハァと大きなため息を吐くのが聞こえた。
そりゃあ呆れられもするわよね。
心の中で自嘲したその瞬間、カカシの手が伸びてきて、わたしの手を包み込む。
「こうすれば暖かいでしょ」
指一本一本を絡ませて、カカシは笑いながらそう言った。
わたしの身体が急にぽかぽかと熱を持ったのは、繋いだ手の温もりのせいか、それとも手を繋ぐという行為そのものへの照れなのか。
「鳴り始めたな」
視線を合わせるのが気はずかしくて、俯くわたしの頭上に降るカカシの声。
耳を澄ませば、ゴーンという低い鐘の音が冷たい空気を震わせる。
「……年、明けたんだよね」
「まだ実感ないの?」
「今実感した」
鐘の音を聞いて初めて一年の巡りを実感するわたしは、やっぱり時の流れに対して疎いかもしれない。
「……そういえばわたし、去年は任務中に聞いたよ、除夜の鐘」
「オレも」
後少し歩けば目的の神社だというのに、わたしたちは立ち止まったまま、鳴り響く除夜の鐘に耳を済ませた。
冬の澄んだ夜空に浮かぶ星の瞬きが綺麗だと思った。
繋いだ手の大きさと温もりが、わたしの心と身体を暖める。
季節はいつだってあっというのに間に過ぎ去って、わたしは一年間を慌ただしく過ごしていた。
嬉しいことも、そして悲しいことも沢山あって、のんびり季節を感じてる暇なんてなかった。
だけど、嬉しい時も悲しい時も、カカシは必ず傍にいてくれたのだ。
誕生日もクリスマスも無かったけれど、カカシはずっと隣にいてくれた。
「なまえ」
「うん」
「来年も来ようか、初詣」
「……もう来年の話?」
年が明けたばかりだというのに、もう来年の話をするカカシが可笑しくて。だけどそれ以上に、また一年を隣で過ごしてくれることを当たり前の様に言ってくれることが嬉しかった。
「あ、そういえばまだ言ってなかったわよね」
「え?」
「明けましておめでとう。今年もよろしくね、カカシ」
「こちらこそ」
改まった挨拶を交わしたらなんだかむず痒くなって、わたしたちは二人して笑った。
今年もきっと、季節の流れになんて気に留める余裕なんてなく、慌ただしく過ぎ去っていくんだろう。
だけどカカシが隣にいてくれるならそれでいい。
来年も一年の終わりに除夜の鐘を聞きながら、『また一年あっという間だったね』って、そう言って笑い合いながら、隣にいてくれる幸せを噛み締めさせて。
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