任務を終えて帰宅した先は自分の部屋ではなく彼女の部屋。
ここのところ任務続きで彼女の顔を見るタイミングを失って、どうにもこうにも我慢が利かなくなって深夜にこっそり忍びこんだ。(いや、合鍵は持ってるんだよ?)
彼女の笑った顔が見れればいいなんて思ってたけど、夜が最も深い時間。彼女は案の定夢の中で。
それでも彼女の幸せそうな寝顔を見ていたら、くたくただった身体から力が抜けて、眠気がオレに襲い掛かる。


***


「おはよう」

気付けば鼻腔をくすぐるコーヒーの香り。
オレを見下ろすなまえの顔。
どうやら昨晩なまえの寝顔を見てるうちに眠気に襲われたオレは、身体をソファに沈めてそのまま眠っていたらしい。

「来るなら来るって言ってくれれば良かったのに」

そう言いながらキッチンに向かうなまえの声はどこか刺々しい。
いや、なまえの言葉が刺々しい原因なら解ってる。
なんせこうして顔を合わせるのは本当に久しぶりだった。任務に追われ彼女を放置していたオレを責めたいのだろう。

「悪かったよ」

せっかく会えたってのに朝っぱらから喧嘩なんてしたくなくて下手に出れば、「わたし別に怒ってないし」と、目の笑ってない笑顔で言われた。……怖いんですけど。

「大忙しねー、カカシ先生は」

煎れたコーヒーをテーブルに置いて、なまえはソファに腰を下ろした。
先生というフレーズにやたら力を込めて言うのは、最近オレがアカデミー卒業生を初めて下忍にしたからだ。

「大変?先生の仕事は」

それまでの刺々しさは影を潜め、オレを気遣う台詞。
だけど素直に心配するのは癪に触るのか、みょうじは少し俯き気味で、その顔には小さな葛藤が浮かんでいる。
そんな彼女の表情すら愛しくて、オレは目を細める。

「まぁね。下忍になりたてでまだまだてんでバラバラな奴らだしね」

受け持つ事になった三人の顔を思い出せば、思わず苦笑いが洩れる。

「ま、これからでしょ」

そう言ったオレに、なまえは「ふぅん」と、面白くなさそうな返事を寄越す。

「……っと、そろそろ行かないと間に合わないな」

壁に掛けられた時計に目をやる。
今部屋を出て慰霊碑に行き、そして集合場所に行けば約束の時間までには間に合うはずだ。

「……なんだかんだ言って……カカシ、可愛いんじゃない?その子たちが」

立ち上がったオレの背に、なまえがそう声を掛ける。

「んー……そうかもしれない」

振り向いて、部下に対する素直な気持ちを呟けば、彼女はムッと口を尖らせて、明らかに不機嫌な表情をする。そっちからふっておいて、その反応はないんじゃない?
今や腫れ物以上にどう触れればいいのか解らないみょうじと、困りはてるオレ。
どうすれば機嫌が直ることやらと途方に暮れはじめた時、彼女がチラリとオレを見上げた。

「……わたしの事も……可愛いがってよ……」

相変わらず唇を尖らせたまま、それでも言った台詞が恥ずかしかったのか、目を臥せて頬を赤らめる。
普段から自分の気持ちを口にするのが下手ななまえの精一杯の表現が、オレの心臓を鷲掴んで離さない。
めったに見せない可愛い仕草で、そんな可愛い事言っちゃって、どうなるかわかってるんでしょーね。
口元の笑みを隠し、玄関へ向かっていたオレは踵を返す。

「どう可愛がってほしい?」

なまえの目の前で足を止め、腰を曲げて距離をぐっと縮める。
床ばかり見つめるなまえの頬がまた一段と赤く染まった。

「……どうとでも……カカシの好きにしたら?」

さっきまでの照れた表情は影を潜めて、一転今度は挑発的な瞳でオレを見る。
照れた表情も良かったけど、そんな表情も嫌いじゃない。

「覚悟しなよ?」

オレはそう言って、自分となまえの距離をゼロにする。
今日の遅れた理由は『彼女を可愛がってたから』。これで決まりだ。