「カカシ先生って欲なさそう」

任務を終え、ふらりと顔を出した待機所に見慣れた顔を見つけて、気紛れに「よ」なんて声を掛けて目の前に腰を下ろした途端、顎を手のひらに乗せたなまえの開口一番がこれだった。

「なに、急に」
「だって、この前ナルトとサクラと一緒に先生ん家遊びに行った時、部屋に何にもなかったんだもん」
「遊びにって……あれは『押し掛けて』なんじゃない?」
「どっちだっていいよ、そんなの」

さらりと何の気なしにそんな台詞を吐き出す姿は、やはりまだどこかあどけない。

「ねぇ、先生何か欲しいものとかないの?」
「欲しいもの……ねぇ」
「なんでもいいんだよ」
「そう言われてもな……」

欲しいものはと問われて思案してみるものの、特にこれといって思いつかない。
とりあえず無きゃ困るものは揃ってるし、なくしてしまったものを取り戻したいと思う程、オレは夢見がちじゃない。
なかなか答えを出さないオレを見て、なまえは面白くなさそうに溜め息を吐いた。

「先生、ホントに欲がないなぁ」
「そういうお前はどうなのよ」
「わたし?」
「そ」
「わたしは欲しいものいっぱいあるよ」
「ふーん……。例えば?」
「わたしはねー、新しい服が欲しいでしょー。それからね、忍具も新調したいしー・・・」

欲しいものを次々述べるなまえの姿は、まだ年若い少女そのもので、オレは少し呆れながらも口布の下でそっと笑いを漏らした。

「あ!先生今笑ったでしょ。もしかして欲張りだなぁってバカにしてる?」
「 そんなことないよ。欲しいものが沢山あって羨ましいって思っただけ」
「ふぅん?」

ひとりでそっと漏らしたつもりの笑いを、なまえはオレが彼女を馬鹿にしていると勘違いしたらしい。
ぷくっと頬を膨らませて拗ねてみせた。


「わたし欲しいものがいっぱいあるんだよね」
「うん」
「でもね、今一番欲しいものは自分のものにするのが難しいんだ」

そう言って難しそうに眉をしかめるなまえの一番欲しいもの。「何をそんなに欲しいのよ」と、そう問うてみれば、なまえは一瞬目を伏せ、だがまたすぐに真っ直ぐオレに視線を向けた。

「わたしが今一番欲しいのはね」
「うん」
「先生」
「うん」
「だから、先生なの」
「……え?」

今オレの目の前にいるこの子は一体何を言ってるのか。さっぱり理解出来ずにいるオレは前に座るなまえの顔を見る。


「わたしは、先生が欲しいの」
「……」
「先生が他の人のものになっちゃうのが嫌」
「あのね――」

『オレはものじゃないよ』とか、『そういうセリフはホントに大事な人ができた時の為にとっときなさいよ』とか、なまえに言いたい言葉はいくつも思い浮かぶのに、さっきまでの子供らしい表情とは一変し、真摯な眼差しをオレに向ける彼女に、情けなくも戸惑っている自分がいる。
まだまだ子供だと思っていた少女が、急に大人の女の顔をして、オレを見ているのだ。

大丈夫。この年頃の女の子は憧れを恋だと勘違いしてるだけだから。頭ではそうわかっているのに、大きく脈打つ心臓の音。
なまえに聞こえてしまっていないだろうか。


「ねぇ、カカシ先生」
「うん」
「先生、ちょーだい」

大人の顔して強請る少女に対し、オレの中で蠢くこの感情は、一体何ていう名前だろうか。