「おーい、水割りとパフェ的なモノ頼むわ」

いつもと変わらぬ平日の夜。相変わらず仕事は無ぇわ金も無ぇわでもうこいつぁ飲むしかねぇなと居酒屋を数軒はしごして、最後にたどり着いたのは万事屋の下のババァの店。
店内は程よく賑わっていて、カウンターに腰を下ろした俺の注文には、どいつもこいつも気付いちゃいない。

「酒飲むなら家賃払ってからにしな銀時」

俺に言いながら、ババァは他の客の注文した酒を慣れた手つきでグラスに注ぐ。

「皺だらけのババァに用はねぇんだよ」

カウンター席から店内を見渡せば、せっせと働く機械と萌えというよりもはや凶器でしかない猫耳女の姿はあれど、目当ての女の姿は見えず、今日は大人しくけーるかと思った瞬間、

「戻りましたー」

ガラガラと引き戸の音を起て姿を現したのは今夜の目当てで。

「すみません、お登勢さん。遅くなっちゃって」

どうやら遣いに出ていたらしいなまえは、カウンターの中に入ると片手に下げた大江戸スーパーのビニール袋からレモンをがさがさ取り出した。
そんななまえの一連の動作を黙りを決め込んで見つめていれど、なまえの視線は俺の元へはやってこない。
つーか、俺の存在丸々無視?
え?なにこれ焦らしプレイ的なアレなの?

「あー……ゴホン」
「……」
「ゴホン、ゴホン」
「……」
「ゴォッフォッ、ゴッ「あ、居たんですか坂田さん」

フリとかじゃかなくマジで喉傷めんじゃねーかってくらいの咳をして、やっとなまえは俺の存在を認める。


なまえは最近このババァの店に入ってきた新人ホステスだ。
いつだったか、いつもと同じ様にフラリとこの店に立ち寄った夜、見知らぬ顔がいるじゃねぇのと覗き見れば、俺のドストライクを突いた顔にスタイル。
俺の股間センサーの反応もハンパねぇし、これって所謂一目ボレってヤツですか?とか思いながら、その次の瞬間にはもうなまえの名前どころかスリーサイズまで聞いていた。


「なまえちゃん、俺に水割りとパフェ的なモンね。あ、ついでに俺と一発どう?」
「金の無い人に飲ます酒はありませんよ坂田さん。パフェもないし『ついで』以降は例え地球最後の日でもあり得ない事態ですから」
「イヤイヤイヤ、さすがに地球最後の日はなまえちゃんでも人恋しくなるって。銀さんの腕の中で最後を迎えたくなるって」
「イヤイヤイヤ、あり得ないから。地球最後の日だとわかったその瞬間に坂田さんを殺しに行きますから、わたし」

レモンを輪切りにしていた包丁をギラリとちらつかせて言うなまえの顔には、有名絵画もビックリの微笑。

「え?なまえちゃんもしかしてサディスティック星の方?プリンセスだったりしちゃう?」
「勝手に宇宙人にしないでもらえます?ていうかわたしがサディスティック星人なら坂田さんはまるでダメな天パ男・・・長いから略してマダオ星の王子なんじゃないですか?」
「大丈夫だから。俺婿養子オッケーだから。マダオ星からサディスティック星に籍入れられちゃうから」
「安心してください。サディスティック星は天パ立ち入り禁止なんで」

なんで天パ限定ィィィ!?とか、俺のツッコミに無視を決め込み、なまえは輪切りのレモンをグラスに載せると、テーブル席で騒ぐオヤジどもの元へ向かった。


「お、キミ新入り?可愛いねー」
「はい、なまえです。宜しくお願いします」

酒を運ぶなまえの登場に、異様な盛り上がりを見せるオヤジ軍団。
なまえもなまえで、俺には絶対見せねぇ様な笑顔を振りまいている。
その笑顔少しくらいは俺にも分けてくれたっていいんじゃねーの?それにしてもやっぱ笑った顔も可愛いーわあの娘。
馬鹿みてぇになまえの姿を食い入る様に見つめていると、酒が入ってすっかり出来上がったオヤジの1人が手を伸ばす。
その手が行き着いた先は他でもないなまえのケツで。

「……っ!ちょっと……なにするんですか!」
「いいじゃない、減るもんじゃないし」

身を捩って抵抗を示すなまえの態度なんぞお構い無しのオヤジの手。
明らかに不快感を表すなまえの顔。『しょうがない客だねェ』とため息混じりに呟くババァの声を背に、俺は立ち上がっていた。

「スイマッセーン、ここは健全なエロを嗜む店なんでおさわりはご遠慮願いまーす」

言いながらなまえの腰に手を置いて、オヤジどもからひったくる様にして傍に引き寄せた。
横目でチラとなまえの顔を見れば、驚いたのか目をぱちくりさせて俺を見上げている。

「嫌がる女のケツ触りがら飲む酒なんざ不味くってしょうがねぇだろう。……それにさぁ」

相変わらず隣でなまえは俺を真っ直ぐ見上げている。
その視線に銀さんただならぬ熱っつい想いを感じちゃったからね。今夜こそマジでイケちゃうんじゃね?

「なまえは俺のだから(俺ですらまだ触ってねーケツに触るなんざ羨ましすぎんだよコノヤロー)」

言って、なまえの腰に添えた手に少しだけ力を入れて、テーブル席から離れる。
腰に添えられた手に拒否を示すこともなく、少し俯いたなまえの横顔に、ヤベ、一発どころかニ発三発もありかもしんないとか、俺のムスコも期待を膨らます。


「……坂田さん」
「礼ならいらねぇよ。笑って酌してくれりゃあそれでいい」

なまえは立ち止まり、腰に添えていた俺の手に自分の手を重ねると、口端を持ち上げた。

「かっこの中身、駄々盛れだったんですけど」

なまえが言うと同時に、俺の手からボキッと音がした。
その音がなまえが俺の指をあり得ない方向に向けた所為だと気付くのに、そう時間は掛からなかった。

「そんなにケツが触りたいならその両手バッサリ切り落としてケツの穴にツッコミましょうか?(勿論テメーのケツにな)」
「えっ?ちょ……なまえちゃんんんん!?かっこの中駄々盛れだけど!?ってゆうかもうそのセリフ全部ピーとか入れた方がいいんじゃないかなぁ、ウン!!」

なまえが包丁を手に取るまで、約3秒。
俺は大慌てでスナックお登勢の引き戸を開けた。