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「小澤さん、これ間違ってたから直しといてね」 自分のデスクにバサリと落とされた書類の束は、苦労した末に先日やっと提出し終えたばかりのものだった。立ち去る先輩の背中に向かって、小さく「はい」と返事をして、バラバラになった書類をまとめる。 「大丈夫?」 隣の席から顔を覗かせたのは、わたしが神奈川に異動してきた当初からなにかと良くしてくれる同僚だ。 「うん、大丈夫よ」 「そうか?ヘコんだりしてない?」 「大丈夫だってば。ボンヤリしながら仕事してたわたしが悪いんだし」 へへへ、と情けない笑いを漏らした。 本当は、大丈夫なんかじゃない。今にも潰れてしまいそうな心臓をどうにかしようと、わたしは大きく息を吸い、そして吐き出した。 窓の外に目を移せば、鮮やかな緑に彩られた風景。季節は、そろそろ春から夏へと移り変わろうとしているのかもしれない。 一日中座りっぱなしでだるい足を引きずる様に家路につく。体が重たい上に仕事でミスをしてしまったことにより、心までその重量を増して気分が晴れない。 冬に越してきた少し小さめのアパートの外観も、今はもう見慣れたものだ。部屋の前で立ち止まり、動かすことが億劫な腕を肩から下げた鞄の中に突っ込んで、手探りで鍵を探す。 ドアを開け、靴を脱ぎながら「ただいま」と言う。小さな声で言ったのに、やたらと室内で自分の声が響くのは、この部屋にいるのがたった1人だから。「ああ、わたしは1人だったんだ」と、毎度毎度認識せざるを得ない。 真っ暗な部屋の電球を点し、パッと明るくなり目に映るのは小さなワンルーム。たいして狭くもなく広くもないこの部屋は、一人暮らしにはもってこいの広さであるはずなのに、わたしにはやたらと広大に思える。 彰と同じ部屋で暮らし、そして別れてから数ヵ月が経った。 わたしの心はふわふわと何処かを彷徨っていて、ここ数ヵ月、ずっと落ち着かなかった。それが何故なのか、わたしはもう知っている。 嬉しいことがあった日、家に帰って誰かに伝えたくても、誰もいないこの部屋で、わたしは知った。 辛いことがあった日、人の笑顔を見れば元気になれると思っても、帰宅すれば誰もいないこの部屋で、わたしは知ったの。 彰が、いない。 彰を自分勝手に利用したのはわたしで、その罪悪感に耐えきれなくて部屋を出たのもわたしなのに、彰がいない今の生活が、『淋しい』だなんて思ってる。 「馬鹿みたい……」 たったひとりの部屋で、そう呟く。 自分勝手なわたしは、彰と別々に暮らす様になっても相変わらず自分勝手で、もう傍にいない彰への淋しさを募らせている。 こんな自分が、大嫌い。 *** 「仙道!今度の練習試合、絶対遅れてくるんじゃないぞ!」 部活の練習後、部員全員で輪を作り、監督の話を聞くのが決まりになっている。 今日の監督はインターハイ予選を前に行われる他校との練習試合について長々と語り、そして仕舞いには練習に遅刻した俺へ釘を差すことで終了を迎えた。 「仙道、お前絶対遅れるなよ」 練習を終え帰路に着こうとしたところで、越野が監督と同じ台詞を繰り返した。 「わかってるよ」 「ホントかよ。頼むぜ、お前キャプテンなんだし」 「うん」 「……それによ、俺たち3年は、もうすぐ最後だろ」 越野はスニーカーの紐をキツく結びながら言った。その言葉に籠もっていたのは、淋しさと、強い意識。 負けん気の強い越野のことだから、淋しさを押し殺そうと語気を強めたんだろうけど、上手く隠しきれなかったらしい。 「越野」 「……なんだよ」 「大丈夫だよ」 俺が言うと、越野は顔を上げて、「何が大丈夫なんだよ」と、俺を睨んだ。 何が大丈夫なのかは俺にもよくわからなかったけど、はっきりしていることは、この夏は、譲れないってことだ。 「訳わかんねーよ、お前」 越野は言いながら立ち上がり、歩きだした。相変わらず少し荒い言い方だったけど、口端を持ち上げていたから、俺も笑った。 越野に続いて体育館を出る。校門にたどり着いたところで「じゃあな」と言い合い、越野と別れた。 華梨が部屋を出て行って、もう数ヵ月が過ぎた。彼女が部屋を出たのは冬だったのに、季節はいつの間にか移り変わって、もうそろそろ春が終わる。 華梨があの部屋を出て行った後も、俺は同じ部屋で暮らしている。 別にあの部屋を出て行ったっていいわけだし、出た方がいいのもわかってる。 あの部屋には華梨が残り過ぎていて、キッチンを見れば料理を作る彼女の背中を思い出し、リビングにいればテレビドラマを真剣に見つめる横顔が浮かび、ベッドに横になれば「起きなさい」と言う彼女の声が頭の中に響いた。 毎日毎日、あの部屋に帰る度に、華梨が、「おかえり」と、そう出迎えてくれそうな気がしてしょうがない。ある日突然、「帰ってきちゃった」と、照れ笑いしながら華梨がドアを開けるような気がしてならない。 だけど、実際はそんなこと起こりっこないのは、よくわかってるんだ。 華梨が出て行ったあの日、彼女の背中を見つめながら、その腕を掴んで引き止めたかった。そうしければ、俺と華梨はもう二度と会わないことはわかっていたから。 だけど、俺は彼女を止められなかった。 ただ華梨の背中を見送ることしかできなかった。 華梨が俺と一緒にいて辛い思いをするのなら、華梨が笑えるなら、一緒にいない方がいいんだ。そう思うと、俺の体は動かなかった。 こんなにも華梨を強く想ってるのに、それでも報われなかったのは、彼女が大人で、俺が子供だからなんだろうか。 もしも華梨に出会ったのが数年先で、お互い大人だったなら、こんな結末にはならなかったんだろうか。 そんなこと、いくら考えたって無駄以外のなにものでもないのに、俺の頭の中をぐるぐると、何度も何度も巡ってくる。 目を空に移せば、太陽は沈みかけていた。 今この瞬間、華梨も何処かで同じ空を見て笑ってくれていれば、俺のやり場のないこの気持ちも、救われるような気がする。 *** 『失ってはじめて大切さに気付く』だなんて馬鹿げてると、わたしはいつも思う。 大切なものなら、失う前からとっくに気付いてるはずだから。‘それ’が、自分にとってどれだけ大切かってことに。 『失ってはじめて』だなんて言うその人だって、ホントは失う前から気付いてたのよ。 だけど、失ってから気付いたと、そう口にしてしまうのは、大切だと知りながらも大切に出来なかったから。 そのことを、自分自身で認めたくないから。 ゆっくりと目を開くと、そこには天井が映る。目覚めたてでボンヤリする頭を持ち上げて、ベッドサイドのテーブルに置いた時計で時間を確認すれば、針は8時をさしていた。窓から差し込む光だけで外の空気が暖かいことがわかる。 今日は休みだ。もう一眠りしてもいいのだけれど、さっきまで見ていた夢が脳内から離れなくて、眠れそうにない。 ベッドから抜け出し、冷たい水で顔を洗いながらもよみがえってくるのは、昨夜見た夢。 夢の中のわたしは笑ってた。わたしの目の前には彰がいて、彼もまた、笑っていた。 場所はあの部屋だった。 ふたりが一緒に暮らした部屋。 何を話していたのかは思い出せないけれど、わたしたちはあの部屋のテーブルに向かい合って座り、笑いあっていた。 わたしは、楽しい、と、そう感じていた。 蛇口の栓を締めると、キュっと音が鳴った。鏡に映るわたしは、情けなく眉を下げている。 彰と過ごしたあの時間は、わたしにとってかけがえのないものだった。 彰はいつもわたしの傍にいて、楽しい時も、辛くて悲しい時も、ただただ優しかった。 見返りなんて求めずに、彰はいつも笑っていた。 目を閉じれば彰が目の前にいるかのように鮮明に浮かぶ彼の笑顔。 目頭が熱くなって、心臓がきゅうっと痛くなるくらいに小さくなる。 どうしよう……わたし、もの凄く彰に会いたい。 電車が駅に停車して、乗客を乗せたり降ろしたりするたびに、わたしの心臓はバクバクと大きな音を起てた。 どうしようもなく彰の顔が見たくなって、何も考えずにとった行動は、家を出て電車に飛び乗ること。 電車はゆっくりと、着実に、わたしと彰が暮らした部屋へと近づけてくれる。 電車に飛びに乗ったはいいものの、わたしはどうするつもりなんだろうか。 あの部屋を訪ねるつもりなのか、あのころ使っていた駅に降り立ちたいだけなのか。 だいたいあの部屋を訪ねたって、彰はもうあの部屋には住んでいないかもしれない。わたしの知らないどこか別の場所で暮らしているかもしれないのだ。 わたしのことなんか忘れて、好きな女の子の1人や2人いたっておかしくない。そう思うと、どうしようもない切なさに襲われて、わたしは目を伏せた。 車内アナウンスが、わたしの目指している駅の名を告げる。 駅に降り立ったわたしを迎えてくれたのは、風で運ばれて海からやってきた潮の香り。 数か月ぶりにやってきた街は、よく知っている街のはずなのに、それでもどこか見知らぬ場所のような気がするのは、最後に見たこの街は冬色で、今は夏を待ち受ける青さに満ち溢れているからだろうか。 電車に揺られながらドキドキと音をたてていた心臓はいっそう激しい音を立てていて、少し落ちつかそうと、わたしは住んでいたアパートへの一番近い道を外し、少し遠回りすることにした。 海が見える道をのんびり歩きながら、いつだったか彰と二人で海沿いの道を歩いた事があったっけ、などと思い出に浸る。 あの時も彰は笑っていた。本当に、彰はわたしの傍にいる時はいつでも笑ってくれてた。 海から吹く風は強くて、少しだけ痛い。潮が心に染みて、キリキリするみたいだ。 海風を受けながら歩くと、やがて見えて来たのは懐かしの陵南高校だった。陵南高校が見えれば、アパートまでもう少し。 彰は今もこの学校で生活しているんだろう。 3年生に進級して、少しは真面目に学業に勤しんでるだろうか。朝寝坊もなくなって、毎朝1人でちゃんと起きてるだろうか。 今の彰は、わたしが知っている彰と、同じなんだろうか。 胸がギュッと締め付けられる。それと同時に聞こえたのは、ワッと騒めく多くの声だった。 声のした方に視線を向ければ、そこにあるのは陵南高校の体育館。声が静まったと思えば、ボールが床を弾む音がわたしの耳にまで届く。 ‘まさか’という思いと、‘間違いない’という思いがいっしょくたにやってくる。 バスケ部がいる。彰も、いる。 アパートに向かう筈だった足は方向を変え、聞こえてくる音に引き寄せられる様に、わたしは体育館へ向かった。 体育館の扉を開くと、目の前に飛び込んできたのは大きな背中だった。ダムダムとボールが何度も床を弾む音も、選手たちが互いに掛け合う声も聞こえるというのに、その姿は扉の前に並んだ観客の背中で隠されて、わたしからは見ることが出来ない。 何処からから飛んできた「仙道さーん!!」という黄色い声援に心臓が握り潰されそうな痛みを覚える。 人波を掻き分けて二階へと上がる階段を上る。二階部分も混雑していて、陵南高校の制服を着た生徒や、他校の制服を身に纏った子の姿もちらほら見える。 柵際に空いたスペースを見つけて、わたしはそこに身体を滑り込ませる。 ガツンという音が館内に響き、ギャラリーが沸く。 コートを見下ろせば、そこにはダンクシュートを決めたばかりの彰がいた。 あぁ、彰だ。相変わらずツンツン逆立てた髪。余裕そうに微笑む顔。 紛れもない、彰だった。 ただひとつだけ違うのは、ユニフォームの番号が、去年よりも小さい数字になっていたこと。ブルーのユニフォームに大きくプリントされた4が、わたしに時間の流れを感じさせた。 他校のチームと入り乱れながらコート上を休むことなく駆ける彰から目が離せずに、わたしは懸命に声援を送った。 もしかしたらわたしの声に気付いてこちらに視線を向けてくれるかもしれないと、そう期待してみたけれど、結局試合が終わるまで彰がわたしを見ることは一度もなかった。 試合は陵南高校の圧勝だった。相手のチームがどこの高校なのかはわからないけれど、母校であるこの高校が勝つというのは純粋に嬉しかったし、それ以上に彰が満足そうに微笑んでいたのがわたしの心を暖かくした。 試合が終了するとあれだけ込みあっていた館内のギャラリーは疎らになり、試合を行っていた選手たちも今はそれぞれチームに分かれ、監督を囲みミーティングをしている様だった。 わたしは、一瞬だって彰から目を離せずに、ずっと見つめていた。だけど彰と視線がぶつかることはなくて、完全なる一方通行だった。 そういえば、ちょうど去年の今頃にもバスケ部の練習試合を見に来たことがあった。 あの時は、試合が終わるとすぐに彰がわたしに声を掛けてくれた。 わたしはあの時迷惑そうな顔をしてたかもしれないけど、ホントは、凄く嬉しかったんだよ。 ねぇ彰。あの時みたいにわたしに声を掛けてよ。 ねぇ彰。あの時みたいに「華梨」って大きな声で呼んでよ。 わたしの願いはなんの効果も無いらしく、ミーティングを終えた選手たちと監督はこちらに背中を向けて更衣室へと消えていった。 いよいよがらんとした体育館は、さっきまで溢れていた声援が嘘のように静まり返り、1年生だと思しき生徒達が床を磨いたりボールを片づけたりする音がやたら響いていた。 今や誰の姿も見えなくなった陵南高校の体育館で、わたしはひとり佇んでいた。 「……バカみたい」 窓から差し込む光は日暮れが近いことを知らせるかのように、赤く、温かい。 「バカみたい。わたし……」 情けなくって、カッコ悪くて、もうどうしようもなくて、わたしは自分自身を罵った。 一体何しにここへ来たんだろう。 一体何を期待してここへ来たんだろう。 彰にまた笑いかけてもらえるかもしれないと、そう思ってここまでやってきた。 だけど彰は、名前を呼ぶどころかわたしに視線を向けることさえなかった。 時間は確実に流れたんだ。彰とわたしは、一緒に暮らしたあの頃とは全く違うものになってしまった。 わたしだけがひとり浮かれて、舞い上がって期待して。 なんて馬鹿なんだろう。情けなくって涙が頬を伝う。 「……華梨?」 名前を呼ばれ、伏せていた顔を上げる。 聞きなれた声に、少したれ目の顔。彰が階段を登りながら、ゆっくりとわたしに近づいていた。 「華梨……なんで泣いてるの?」 わたしの隣までやってくると、彰はわたしの顔を覗き込むようにしながら言った。少し困ったように眉毛を下げるその表情。 彰だ。彰が、わたしの目の前にいる。 「……あんたこそ、なんでここにいるのよ」 頬を伝う涙を袖口で拭い、赤くなった眼を見られたくなくて、まっすぐ顔が見れなくて、わたしは階下に広がるただっ広いコートを見つめながら言った。 「それも俺が聞きたかったんだけどなぁ」 相変わらずのんびりとした口調で、彰は言った。 「びっくりしたんだよ、俺。試合してたら華梨がここに立ってるんだもん。集中出来なくて困った」 はは、と笑いながら彰は言う。 「気づいてたの……?わたしが来てたこと」 横目でチラリと彰を見れば、彼は優しく微笑んでいた。 「うん。華梨、試合の途中から見てたでしょ」 「なら、どうして――」 「……?」 わたしに気づいてたなら、どうして目を合わせることも、声を掛けてくれることもしてくれなかったの? そう言葉にしようとしたけど、出来なかった。 そんなの、どうしようと彰の勝手じゃないか。 あれから時間は流れて、わたしたちはもうなんでもない、ただの他人なんだから。 「……びっくりしたんだ、俺」 暫く続いた沈黙を先に破ったのは、彰だった。 「華梨が来てるのを見ても信じられなかった。華梨の訳がないって思った。……華梨とはもう2度と会えるはずがないって思ってたから……」 わたしは彰の顔を見た。その表情は、まるで今にも泣き出しそうな子供のようだった。 こんな顔をした彰を、わたしは今まで1度だって見たことがなかった。 彰はわたしの前ではいつも優しく笑っていた。見返りを求めるわけでもなく、ただただ優しく笑っていた。 だけど、傷ついてないはずがなかったんだ。 恋人がいるわたしを好きだと言い、ただ笑っていた。 恋人に振られて、彰を利用して、それでも笑ってくれていた。 自分だけが傷ついたと勘違いして、一方的に逃げ出すことを決めたわたしに、彰は最後まで笑ってくれていたんだ。 傷つかなかったわけがない。辛くなかったわけがない。 いつも笑っていてくれたけど、彰だって、高校生の男の子。 わたしのせいでたくさん傷ついて、たくさん苦しんだに決まってる。 それでもいつもわたしを優しく見つめてくれたのは、わたしを大切に思ってくれていたから。 「大丈夫?華梨……」 次々に溢れ出てくる涙をこらえきれずにいるわたしを、彰は心配そうに見つめる。 「……彰」 「うん?」 「ごめんね……」 ごめんね、彰。いっぱい傷つけてごめんね。 彰はわたしをあんなにも想ってくれてたのに、わたしはいつも傷つけてばっかりでごめんね。 泣きじゃくるわたしの頭に大きな手を置いて、彰は何を言うでもなくただ微笑んでいた。 わたしの気持ちも、見返りも、何も求めずにただわたしを想うことがどんなに辛いことか、どれだけ勇気のいることなのか、今になって初めて知ることが出来た。 だから今度は、わたしから。 大人と子供だからとか、そんな言い訳はもう無しにして。 たとえ彰の気持ちが、もうわたしには無くても、わたし以上に好きな人がいたとしても、それでもあなたに伝えさせて。 あなたがわたしにそうしてくれたように、わたしもあなたと同じように伝えたい。 「彰……」 「うん」 「わたし……彰が好き」 「……」 「大好き」 涙でくしゃくしゃになってる顔を彰に向け、真っ直ぐ見つめてそう言うと、わたしはあっという間に彰の腕の中に納まっていた。 「華梨」 「……うん」 「やっと捕まえた……」 わたしを包む彰の腕に、力が篭る。 「ねぇ彰」 「うん?」 「あの部屋、まだ空いてるかな?」 わたしは彰の顔を覗き込んだ。 「空いてるよ。……華梨の部屋は少し掃除しないといけないかもしれないけど」 「……もちろん手伝ってくれるわよね?」 わたしがそう言うと、彰は眉を下げ、困ったように笑いながら、「華梨は人使い荒いからなぁ」と呟いた。 「彰」 「うん」 「帰ろっか」 「……うん」 彰の腕から抜け出して、わたしたちはどちらからともなく手を繋いで歩きだした。 ここから始まる新しい2人の全てを、わたしはなによりも大切にするから。 彰がわたしを大切にしてくれたように、それ以上に大切にするから。 手を繋いだ二人の影が長く延びる体育館のコートを背に、わたしは彰の手を強く、強く握った。 END |